観客の多くは10代の若者。字幕映画なのに間髪入れず反応する。山田孝之が演ずる主人公がエルメス役の中谷美紀と手をつなぐと、「トレインマン(電車男)行け行け」。エルメスが悲しい顔で「もう会わないほうがいいのかもしれませんね」と言うと、すすり泣く声が。見ると、斜め前の席の女子高生が涙をぬぐっている。2人がキスする場面ではウオーと地鳴りのような喝さいが起こり、男子学生が立ち上がってガッツポーズした。言語や文化の差は全く感じられない。観客は100%、電車男の気持ちに寄り添っていた。
米国の高校生活は人気度でヒエラルキー(階層)が決まる。(中略)アニメや漫画、コンピューターゲームに没頭する米国版オタクは「ギーク」と呼ばれ、最下層を構成する。コンピューターの興隆やビル・ゲイツの活躍で、ギークの地位は昔より良くなったが、それでもつらいのだろう。電車男の映画を見終わった後で高校生の一人が「こんなのやっぱり夢物語。ギークに恋人はできないんだ」とつぶやいたのには、泣けた。
「米国のコミックは勧善懲悪でマッチョすぎ。日本アニメや漫画の登場人物は血を流し、泣く。ヒーローにも暗い側面があり、悪者にも戦う理由がある」。会場の高校生は口をそろえる。みんながフットボール選手やチアリーダーになれるわけがない。ギークの悲哀が日本のアニメや漫画のブームを下支えしているような気がする。